「省エネルギー住宅」=「高齢者福祉住宅」

財団法人 住宅・建築 省エネルギー機構
 Institute for Building Energy Conservation(IBEC)

 第4回「環境・省エネルギー住宅賞」
(社)日本木造住宅産業協会会長賞 受賞論文

 
水槽の中のコリドラス 〜JIJIの家〜

高気密・高断熱仕様の建築の意義


建築の省エネルギー化

  建築物、特に住宅においてその性能(省エネルギー化)は、今後、建築基準法の改正や住宅金融公庫の融資面での差別化、又地球規模での環境問題まで関係してくる。一般住宅の個々の性能が上がれば、日本全体の消費エネルギーも押えられる。又自ずとして、国際的な環境問題での対応でも有効な手段となり、太陽光発電と共に、行政レベルの推進は今後ますます拡大されると思われる。逆に、対応できない材料や技術、工法の将来性は、厳しくなるだろう。

  では、なぜ省エネ=高気密・高断熱仕様かといえば、建築物のエネルギー損失を考えた時、同じ仕様の熱源であっても、本体自体の性能でエネルギーロスの差は大きく違ってくる。例えれば、ヤカンで沸かした熱湯をそのまま放置した場合と、魔法瓶に入れた場合での差である。又、魔法瓶自体も、蓋を開けた状態と、閉じた状態ではお湯の冷め具合も変わってくる。逆に、冷水で考えても同じ考察が出来る。

  つまり、高断熱だけではエネルギーロスは大きい。それ以上に、別な致命的な問題を引き起こす要因ともなる。そこで高気密にする事で、エネルギーロスを大幅に減らせる(閉じられた魔法瓶状態)。逆に僅かなエネルギーで、一定温度に保つ事が容易になり、断熱・気密層で覆われた室内を、温度差のない内部環境として計画できる。

温度測定グラフ O邸/19990210〜0211

仕様の問題点と計画換気システム

  高気密・高断熱ということは、外部の影響を受け難いということでもある。室内温熱環境という面ではかなり有効であるが、室内空気汚染という面では、とても危険な状態となりかねない。窓を開けていれば普通の状態であるが、猛暑や厳寒期においては、窓を開けてという生活は、非現実的である。

  そこで、高気密・高断熱仕様の建築には必ず、24時間連続運転の計画換気システムの導入が不可欠となる。通常の建築物(データの取れない気密測定不可能な建築物)では、有効に性能を発揮できないが、最近の社会問題となっている室内空気汚染によるシックホーム症候群は、この換気不足によるところが大きい。つまり、建築資材が微量であっても有機系溶剤等の有害物質を含んだものが多い上、アルミサッシ等の開口部材の性能がかなりよくなっている事により、引き起こっている。この事からすれば今日、建築物を計画する上では、換気システムは不可欠な設備と考える。

  尚、換気システムを導入することにより、空気汚染物質の除去と外気の供給以外に、室内の湿気も除去できる。では、高気密・高断熱+計画換気システムの仕様のレベルはどう考えれば良いかというと、

2-1 断熱性能は、基本的に公庫基準に準じた性能とする。

2-2 換気システムは、建物の大きさ(気積)に比例し、換気回数で0.5回/h

   (1時間で、全空気の半分を換気する)の能力の機種を選択すればよい。

2-3 気密性能は、隙間相当面積:C=2.00cm/u以下を目標とすべきである。

しかし最も重要なのは、2-3の気密性能であり、又その施工方法である。気密確保の施工を安易に考えると、とても危険な状況が生じる。

  上記のシックホーム症候群のもう一つの重要な原因として、壁内、天井裏等の内部結露がある。高気密にするほど、僅かな隙間部分で急激な外気の流入を起こし、結露を起こす(急激な気圧差により温度差が生じるため)。

サッシ廻り等の表面上の見える範囲の結露は拭取るなどの手入れですむが、見えない部分の結露は、建物及び人体に致命的な被害を与える。まず断熱材が吸湿するタイプ(グラスウールなど)は、その断熱効果が失われる。次に、結露による水分と高温多湿状態で、カビが生える。カビが生えると、ダニが寄ってくる。すると、人体に対しアレルギー性の喘息やアトピー性皮膚炎、又カビの胞子は、夏型急性肺炎等の症状を引き起こす。建物に対しても、構造体である鉄骨を錆びさせたり、材木を腐食させ、その耐用年数を著しく失うことにもなる。

断熱と気密に関しては、その材料と施工法をかなり吟味する必要がある。

建築及び人体に関わる内部環境の優位性

  高気密・高断熱+計画換気システムを前提とした建築物の計画では、省エネという利点とは別に、温度差のない内部環境が可能となる(±2度)。

  つまり、人体において、温度差による体内調整器官が必要以上に無理をしなくてよいわけで、快適さ以前に、脳卒中、心臓病、神経痛、リュウマチなどの要因を減らせる。結果として、上記2のような問題点を解決した建築であれば、より健康的な内部環境をも形成できるのである。




将来に向けて

 高齢化社会、国際的な環境問題での規制強化、エネルギー問題等、今後住宅に関わる諸問題はより複雑になるだろう。

 単に商品としての住宅であれば経済的に成り立つが、しかし上記の問題まで考慮すると、住宅の省エネルギー化と耐久性(構造的な面とデザイン的な面)は避けて通れない。

25年、30年のローン返済後(前)、建て替えるような家ではまったく意味がない。また、ランニングコストが掛かるような性能の家でも意味がない。30、40代で家を建ててローン返済後の60代で収入もなくなったとき、月々の高いランニングコストを維持しなければならない。節約して、暖房もせず寒い家で生活するほど惨めな老後はないかもしれない。ほんとうの福祉社会(住宅)を目指すならば、住宅の省エネルギー化と耐久性なくしては成り立たないだろう(バリアフリーは当たり前)。

昨年、北欧の建築を見学したとき、個々の建築の性能から法律や行政のシステムの先進性に驚かされた。今年7月開催されるEU統合のレセプション会場であるA.アアルト設計のフィンランディアホールも、化粧直しのため、大理石の外壁材が張り替えられていたが、その躯体は外断熱通気工法を取っていた(30年近く前の建築)。

日本の住宅も、高齢化に対応した福祉社会を見越した、機能と性能を持つ必要があるだろう。それと同時に、環境、文化として、そのデザイン性もけっして疎かにできない。最後に残るのは、優れた機械ではなく建築のはずだと思うから。








建 築 概 要

住宅名称     水槽の中のコリドラス 〜JIJIの家〜 (O邸)

建 設 地      長野県安曇野市穂高有明

建 築 主       JIJI

設 計 者       岡江建築設計研究所+CIRCLE

岡 江     

施 工 者      有 限 会 社        

岡 江    

住宅概要         造 :木造一般工法+在来工法

           数 :            地上2階建

       延べ面積 :           298.95 u

省エネルギー計画概要

断熱材及び工法       外断熱二重通気工法(カネカ:ソーラーサーキットシステム)

屋根:t=50 押出発砲ポリスチレンボード B類V種

  :t=40 押出発砲ポリスチレンボード B類V種

基礎:t=50 押出発砲ポリスチレンボード B類T種

気密工法           外断熱二重通気工法(カネカ:ソーラーサーキットシステム)

換気システム   エアロバーコ: マルチポート80*2台

暖房方式            サンヨー:        AK31A+ファンコンベクター*5台(床下設置)

冷房方式            無し(自然通風)

                シルバー色鋼鈑横葺き

                  板張り

サッシ    pozzi:    木製断熱サッシ

              カネカ:   樹脂製サッシ(Excel)

              VELUX:  木製トップライト

設 計 主 旨

建築としての環境

この家を考える上で最も重要な課題は、二点あった。一点は、「いかに重度の身障者を介護しやすくするか。」という事だった。つまり、患者本人よりその介護者の負担を最小限にするという事だ。その為には、モジュールの吟味が必要であり、X軸に尺、Y軸をメーターとすることで、スケール上のメリットと共に経済的にも市販材料の無駄を省きコスト減を考えた。

又玄関、和室以外バリアフリーとし、主寝室にはケアスペース(専用の水廻りを備えた(備える事が出来る)納戸)を設け、介護時の労力を減らした。

しかし、最も重要な事は、室内の温熱環境を一定に保つ事であった(機械仕掛けでなく)。この安曇野は、その風景とは裏腹に、夏冬の外気温は厳しい。本人はもとより、介護者=家族にとっても身体的負荷は少ない上、温度変化に対して患者への気遣いをしなくてすむという精神的な面での負担を取除けられる事は、最大のメリットだと考え、高気密・高断熱・計画換気のシステム(SCシステム)とした。

環境としての建築

二点目は、「崇高なる大自然の北アルプスの山々、そして人間の手による自然としての田園風景に対し、最大限の敬意を払うこと。」であった。つまりこの自然の中でどう存在すべきかという答えである。

“トポロジー”そして“建築”についての一つの解答を探る中で、その風体はこの地に点在するケヤキの大木のように、根を下ろしたもののような気がした。しかし自然に合った建物とは、山小屋風だったり、民家風だったりする事ではないように思えてならなかった。一見尊重しているようだが、強い人間原理の元に成り立っている。芥川賞作家の丸山健二は、「自然に合わせようなんて、人間の傲慢さ以外なにものでもない。戦いだ!。」と吠えていた。

夏場対策を考慮して南に背を向け、雄大な北アルプスの風景に開いた特異な形態は、外部温熱環境に左右されない自由な空間構成から生み出された。その内部空間は構造体であるLVLのフレームの中に、人と光と風が多重な内なるトポスを創りだし、南北の大きなガラス面に挟まれたリビングは建築を超えて北アルプスの山々や田園風景と同化する。

敬意を払うとは、そのトポスの潜在秩序を引き出し、戦うことかもしれない。